お知らせ

2026-05-06 14:09:00
第7章 橋が落ちて、町は閉じた

異世界Reboot 小説版

――勇者ではなく、行程表で老いた王国を再起動する――

はるきReboot事務所の考え方を、異世界の王国を舞台にした読み物として再構成した物語です。

第7章では、魔物の問題に見えていた出来事の裏側に、橋・道・人の流れが止まっていた現実が見えてきます。

第7章 橋が落ちて、町は閉じた

森の方角から、何度も鐘が鳴っていた。

広場に人が集まり始める。

また魔物か。最近、畑まで来るようになった。今年も作物がやられる。やっぱり森は危ない。

誰もすぐには動かなかった。いや、動けないのかもしれなかった。

リオが斧を持ち上げる。

「行くぞ」

ハルキはその手を止めた。

「ちょっと待ってください」

「何だよ。畑が荒らされてるんだぞ」

「その魔物って、人を襲うんですか?」

リオは少し考えた。

「いや、人を襲った話はあまり聞かない。でも畑を荒らす。柵を壊す。作物を食う」

ガルドが低い声で言った。

「森から来て、町に害をなすものだ。昔から、あれは魔物と呼んでいる」

「呼び方は分かりました。でも、原因は別にありそうです。現場を見たいです」

森へ向かう途中、ハルキは何度も足を止めた。

道がある。しかし、草に埋もれていた。石畳の一部が見える。その上に土が積もり、草が伸びている。昔は人が通っていた道だ。でも今は、人の気配がほとんどない。

「昔はこのあたり、商人も通ってたらしい。隣町へ行く道だったって聞いたことがある」

リオが言った。

ハルキはしゃがみ、草を払った。

「まだ道は残ってます」

さらに進むと、開拓地に出た。畑があった。だが、柵は傾き、草は伸び放題で、見回りの足跡も少ない。畑と森の境目が、あいまいになっていた。

そこに、黒い獣が数匹いた。犬ほどの大きさ。黒い毛。赤く見える目。牙もある。

けれど、ハルキたちに気づくと、獣たちは慌てて草むらへ逃げていった。

「……逃げましたね」

リオが目を丸くする。

「魔物なのに?」

「人を襲いに来たというより、食べ物を探しに来ているように見えます」

ハルキは畑の周りを見た。倒れた柵、伸びた草、放置された道、人の気配が薄くなった開拓地。

「ここは、人が通らなくなったんですね」

「まあ、昔よりは」

「見回りも減った」
「若い奴がいないからな」
「草刈りも減った」
「人手がない」
「柵の修理も後回し」

リオは黙った。

ハルキは森と畑の境目を見た。

「獣から見れば、ここはもう人間の場所に見えないんだと思います」

人が通る。草を刈る。柵を直す。畑を見回る。そういう気配がある場所には、獣も近づきにくい。けれど、それが消えた。だから森と畑の境目がなくなった。

リオが小さく言った。

「だから、畑に入ってくる……」

ハルキは頷いた。

「魔物が強くなったんじゃない。人の流れが止まったんです」

その時、開拓地の奥でリオが何かを見つけた。

倒木の向こうに、大きな崩落がある。崩れた土の下から、石の土台が見えていた。

ハルキは近づいた。

石畳。橋脚。昔の橋の跡だった。

「橋ですね。昔は、ここから隣町へ抜けられたんだと思います」

リオは黙った。

橋が落ちた。人が通らなくなった。商人も来なくなった。手紙も遅くなった。畑の見回りも減った。道も草に埋もれた。その結果、獣が入るようになった。

「これは、魔物討伐の話だけではありません。橋と道と人の流れの話です」

リオは斧を下ろした。

「じゃあ、倒せば終わりじゃないのか」

「はい。追い払っても、また来ます。畑が放置されている限り。道が使われていない限り。人の気配が戻らない限り」

風が吹いた。

草に埋もれた石畳が、少しだけ見えた。

「この町は、魔物に襲われていたんじゃない。外とのつながりと、人の流れを失っていたんです」

リオはしばらく橋の跡を見ていた。

そして、小さく言った。

「……斧だけじゃ、直らないな」

ハルキは頷いた。

「はい。だから、行程表が要ります」


次回予告

第8章「昔の値段では、未来の畑は買えない」へ続きます。

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