完全に断裂した靭帯は単純につないでも強度が得られないので、靭帯としての機能を回復できません。そのため、何らかの材料を使って靭帯を作り直す靭帯再建術という手術が、標準的な治療方法となっています。靭帯再建の材料として人工靭帯や他人からの移植に頼るという方法には問題が多く、現実的には使用が困難です。
長期間安定した成績を得られる材料としては、患者本人の腱(筋肉の一部で硬い繊維の多い部分)を利用するのが標準的です。腱を取る部分には初期の痛みや傷といった問題がありますが、治療のゴールの時点では機能的な問題はほとんど残りません。この腱を加工して、大腿骨と脛骨をつないで、十分な強度の靭帯を作り直します。腱は、大腿の内側から取る場合と、膝蓋腱に一部の骨をつけて取る場合が一般的です。また、腱をどのように加工してどのように骨とつなぐかという方法も各種あり、それぞれの利点があるので、患者の状態に応じて使い分けます。
【リハビリ】
手術後はできあがった靭帯に負担をかけないように、一定の期間は歩行時に手術をした足に体重をかけることを制限します。そのため、松葉杖を使って安全な移動ができるまでは入院で治療を行います。当科ではその期間は約2週間としています。
退院後は、定期的通院をしながら可能な範囲で機能回復のためのリハビリを行います。新しい靭帯が運動に耐える十分な強度を回復するのには時間が必要です。手術を行う施設によって多少の差はありますが、極端に早い運動復帰には再断裂の危険が伴います。常識的には、日常生活で制限がなく活動できるのが手術後2~3ヶ月で、競技レベルのスポーツ復帰には手術後9ヶ月程度を要します。
【問題点】
どの手術にも合併症などのリスクは存在します。前十字靭帯の再建手術で特に注意を要する合併症・問題は、靭帯の再断裂です。報告者によって差はありますが、靭帯再建を受けた患者の数%で再断裂が起こります。膝関節の形や運動パターンなどの要素が影響するため、専門施設であっても一定の割合で再断裂は発生してしまいます。女性や20歳以下の若年者ではより再断裂の危険が高いと言われています。
もしも再断裂した場合、膝の機能を回復させるためには再手術が必要になる場合もありますが、再手術では使用する材料や手術方法に工夫が必要になるため、十分な経験を持った医師と相談する必要があります。