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2024/03/05 00:35

鱗kokera賞 受賞作 公開します

※ ご本人の許可を得た作品のみ、こちらに公開させていただきます。

※ 賞ごとに五十音順となります。

【 鱗kokera賞 】

◆徂春の匙   内野 義悠

 

揺り起こす肩のうすさへしやぼん玉

 

野遊のはじき合ひたる声と声

 

流氷来からつぽの胃の輪郭へ

 

腹鳴るを聞こえぬふりの遅日かな

 

ケチャップの文字を徂春の匙くづす

 

薫風や色の褪せゆく地図へピン

 

皺ぐせのペソやルピーや熱帯夜

 

秋暑しねむたく匂ふコパトーン

 

甲板に展くからだや天高し

 

豺獣を祭る火口のひとめぐり

 

義歯二つ並ぶ北窓塞ぎけり

 

はつゆきのひらと造花を信じきる

 

告げたきを告げず蜜柑のやはきすぢ

 

雪もよひ火窪に夜の溜まりきし

 

白く息浜の弓なり歩みつつ

 

◆水没   牧野 冴

 

ファとシの無い木琴叩く春の風邪

 

ヒヤシンス抑揚のない読み聞かせ

 

しゃぼん玉わらわら機械の体欲し

 

クリップごと食わせる初夏のシュレッダー

 

煎餅のじゃこと目が合う晶子の忌

 

赤文字の順路に沿って日射病

 

夏の月病棟のコンビニに靴

 

副業の誘い断り南瓜割る

 

前科二犯コスモスを揺らさず歩く

 

魔女に火を借りるナースやハロウィーン

 

メイドみな箒星指す冬館

 

着膨れて東京弁の練習す

 

町に生まれ町に死ぬ子や石蕗の花

 

十二月八日異国の神に嘴

 

花にリボンここは水没するという

 

【村上鞆彦賞】

 

◆梨に噎せ   関 灯之介

 

梨を剥く微熱の家の光かな

 

白昼の梨の裸をかなしめり

 

誰も籠の二十世紀に言ひ及ばず

 

洋梨に磁場や水流ねぢれつつ

 

皮うすく隔てて指と梨の肉

 

梨を食ふほかの響きを失ひぬ

 

梨を食ふ音に因果のすこしずれ

 

贋作のアトリエ二十世紀傷む

 

起きぬけに梨でつぷりとありて癪

 

昼の鬱夜より激しラ・フランス

 

梨齧る大きな窓は飛び降りよ

 

噛み痕の翳れる梨も希死念慮

 

梨に噎せわれはアダムになりそこなふ

 

思へば梨のざらつく記憶ばかりなり

 

おそろしく凪ぐテーブルに梨の擬死

 

【西村麒麟賞】

◆西瓜    田中 木江

 

店できてゐるといはれてみれば春

 

人さがすごとくに蝶や我を避け

 

妙案を飛花の高みにさがしをり

 

刃に運ぶキッシュ一切れ鳥の恋

 

薔薇の名の薔薇に隠れてゐたりけり

 

脚に葉のくつついてくる雨蛙

 

缶ビール置いて大きなアンコール

 

三人を涼しくひろふ車かな

 

西瓜食むこの夏あまり寺社行かず

 

部屋で焼く肉や台風どこだらう

 

文化祭壁の高きへ星戻し

 

声あらば長き夜はその周波数

 

相づちを要所要所や蜜柑剥く

 

枯蟷螂影をこすると消えさうな

 

日記買ふ降ると思しき雪はまだ

 

【鴇田智哉賞】

◆茶碗に銭   加藤 右馬

 

草餅を千切ればゆつくりと縮む

 

苗札にクリップの錆残りたる

 

麗らかに裂くるや魚肉ソーセージ

 

五月雨や二つの判子注射痕

 

立葵茶碗に銭の少しある

 

ブラインドタッチで雲の峰育つ

 

風死して利根川に白球の消ゆ

 

中華屋を出て見憶えのなき木槿

 

パトライトが無月の団地撫で回す

 

回転扉ばふりばふりと暮の秋

 

伸びてきしトングに炭を渡しけり

 

俎に直線の浮く十二月

 

クリスマスツリー消毒液匂ふ

 

会心の笑みで臘梅手折る人

 

鬼やらひ二穴に目の動きゐる

 

 

【奨励賞】

 

◆知らない駅    岡 一夏

 

拭き上げてホワイトボードから立夏

 

右上に住む筍をくれる人

 

太陽が墜ちたらすごい日焼する

 

かき氷じゆんじゆん鳴るよ突つつけば

 

また何も叫ばぬ夏が終はるのです

 

どこでもドアただし花野のどこへでも

 

恐縮のコーンお粥の真ん中に

 

公園にいろいろな碑や時雨傘

 

蟷螂は枯れるコーラは歯を溶かす

 

君のマフラー僕を何周でもできる

 

鏡餅ことしは太れますやうに

 

天井が白い成人式だつた

 

でも君の手皿は綺麗わらび餅

 

うららかで結局みんな団子買ふ

 

知らない列車知らない駅の桜かな

 

◆亀の視界   笠原 小百合

 

鶏頭やキャバレーありしビルヂング

 

秋の日のうさぎの眠るやうな石

 

偽りの血の赤赤とハロウィーン

 

一枚の木の葉舞ひ降り穴だらけ

 

風邪の日の亀の視界となりにけり

 

砂つぶのおほきく見えて冬の水

 

日記買ひたるデパートの中二階

 

冴ゆる夜の手摺に指紋残したり

 

大袈裟に笑ふ青年チューリップ

 

新宿が雲となりたる春霞

 

春昼を占め老猫の咀嚼音

 

風船はやさしき息に膨らまず

 

夏木立歌へば歌ふほど孤独

 

神さまの心臓掴む暑さかな

 

叱られて仙人掌の花ひらきたり

 

◆風の形   髙田 礁湖

 

梅香る神主を待つ地鎮祭

 

円えがくカップの茶渋大試験

 

幕末の刀傷見て花見して

 

熱弁やパスタの浅蜊剥きながら 

 

鯉のぼり風の形に遊びたる

 

兄が投げ弟が追ふ浮輪かな

 

夏海に引力のありペダル漕ぐ

 

文化祭絵の具だらけの手を振つて

 

思春期のデラウェアむしり食べざりき

 

息かかるひそひそ話秋の繭 

 

桔梗や蜜を吸ふ蜂かくまひて

 

包まれしものから眠る冬構

 

病院のコンビニやさし湯気立てて

 

カーテンを天使に仕立て聖夜劇

 

一礼に緞帳おりる春隣

 

◆鈴の音   寺澤 佐和子

 

退院の父の連れたる雪螢

 

靴に入る小石を連れて冬の園

 

喉仏細りをとこの湯ざめかな

 

牛乳の膜に翳ある霜夜かな

 

冬帽をていねいに置き医師の前

 

白菜のよく煮えけふの疲れかな

 

極月や父漆黒のもの吐いて

 

病む口へちひさき氷クリスマス

 

水欲るといふ白息の淡きこと

 

底冷えを踏み自転車の蹠かな

 

着ぶくれや今更に手を握るなど

 

薄墨の眼の追はぬ冬ともし

 

燭の火のときに太れる冬座敷

 

鈴の音を立てて小春の壺へ骨

 

受け継ぎしものに家土地冬日向

 

◆ 野外劇   林 真理

 

囀や吊りスカートの背のばつてん

 

春野の座バーガー冷めてずれてをり

 

夏星に口上澄めり野外劇

 

アイスクリン匙の袋は兄が裂き

 

シチリアのマンマの腕あつぱつぱ

 

噴水や石の小僧の頭を穿ち

 

水中花浮かせて沈む重り玉

 

朝寒やステンレス打つ水の音

 

無花果に頭のすれすれや測量士

 

ヒール鳴る釣瓶落としの保育園

 

亡き母のもう寝なさいよ鉦叩

 

園丁の男佳きかな柿落葉

 

凭れ合ふロシア人形日短

 

冬の夜や鸚哥の籠に布掛けて

 

献呈の頁明るき花八手

 

◆花園へ   福嶋 すず菜

 

金平糖くぼみ涼しき手のひらへ

 

補聴器の勾玉めくや麦の秋

 

スリッパを干したる初夏の英語塾

 

蝕のとき夏帽いつせいに傾ぐ

 

劇団のロミオ老いたりアマリリス

 

心臓に緋牡丹のくる浴衣かな

 

墓守の裔となりたる夏の蝶

 

竹垣は男結びや晩夏光

 

新涼や水にふくらむひよこ豆

 

白桃にためらひ傷をつけるごと

 

野葡萄に触れて濡れたる右の耳朶

 

秋夕焼端のちぎれし経絡図

 

花園へ加速してゆく乳母車

 

茹で蟹の手足をたたむ夜業かな

 

鉄棒の鉄の匂ふ手冬隣