Q.名前を貸していただけなのに

Q.名前を貸していただけなのに
 私はとある会社の監査役になってくれと頼まれ、名前を貸していました。
 ところが、その会社が詐欺的行為を行ったとして、被害者と称する方から私宛に損害賠償請求をする通知が届きました。
 たしかに、その会社の商業登記簿上、私は監査役として載っていますが、実際には報酬も貰っておりませんし、取締役会等出席したこともなく、そもそも開催されているのかすら不明です。
 その会社の代表取締役に「どうなっているんだ」と連絡を試みたのですが、携帯が通じません。
 私はどうすればよいのでしょうか?

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A.本件で、争点は大きく分けて2つあります。
 まず、本当に、請求をしてきた自称被害者に「損害」が生じているかです。
 この点をしっかり検証することなく、安易に「私は報酬を貰っていないから、責任がないと」か、「解決金を払うから、それで終わりにしてくれ」などと話をするのはとても危険です。
 裁判になれば当然ですが、たとえ裁判になっていなくとも、相手方には請求をする以上、損害の内容を明らかにする責任があります。
 その損害の内容については、それが裁判になった場合、本当に証明に耐え得るものなのか、弁護士に必ず相談してください。
 次に「損害」が生じていることが証拠上明らかであるとしても、報酬を貰っていないあなたが、責任を負うかというのは別の争点となり得ます。
 この点、法律上は、監査役は取締役会への出席が義務であり、取締役の不正行為を遅滞なく取締役会に報告する義務等がありますし、かかる義務を怠った場合は第三者に対して損害賠償責任を負うものとされています。
 そして裁判例の中には、あなたのような、名ばかりの監査役であったとしても当然に免責されることはなく、監査役としての稼働可能性、不正行為の認識可能性・認識容易性などを考慮して監査役としての任務懈怠の有無を判断するものとされたものがあります(東京地裁平成22年4月19日)。
 よって、あなたが友人の誼みで名前を貸しただけだという主張は通用しないので、雲隠れした代表取締役の不正行為がいかに内部的に行われており、あなたが注意して会社を監査していても発見できなかったということを推認させる、具体的な事情や証拠を収集・提出してゆくことになると思います。
 ただし、我が国の中小企業には、あなたのような名ばかりの監査役は数多くいるでしょうし、かかる実態から、ただちに責任を負わせるわけにはいかないという心証を開示した裁判官も過去に宮崎にいたので、監査役の損害賠償責任の要件である「任務懈怠」をどの程度厳しい尺度でみるかは、裁判官により判断のブレがあるようにも思います。