第50回 男性更年期障害について

男性は女性と違い、閉経がないので更年期障害はないと長い間考えられてきました。しかし、近年男性も加齢により精巣から出る男性ホルモンが少しずつ減少し、様々な症状が現れることがわかってきました。漫画家のはらたいらさんがご自身の経験を本にされたり、様々なメディアで特集されるようになってから男性更年期障害の存在が知られるようになってきました。現在は、男性は女性と比べ男性ホルモンの下がり方が緩やかなので症状の出ない方あるいは症状が軽い方が多いだけだと考えられています。

男性ホルモンは、体内の様々な臓器で働いています。血液を作り、骨を強くし、脂肪を減らし筋肉を作る、また、認知機能を高める作用があることも明らかになり、最近は生活習慣病との関係、認知症との関係も研究されています。患者さんの多くは、外来診療で主に以下の3つの症状を訴えられています。

1.     精神症状として、抑うつ、イライラ、不安、意欲低下、睡眠障害、記憶力の低下

2.     身体症状として、突然の発汗、のぼせ冷え、肩の張り、関節痛

3.     性機能障害として、性欲の低下、勃起障害、持続力の低下

これらすべての症状をお持ちの方もおられますし、一部の症状だけを訴えられる方もおられます。外来診療では、まずこのような症状を持つ方々に対し、様々な問診を行い、症状の重症度を判定します。また、精巣の大きさ、前立腺の大きさ、体毛の状態などを観察します。さらに血液検査を行い男性ホルモンの濃度を測定します。

男性ホルモンは、日内変動をしており午前8時から10時頃一番分泌が高まります。そのため診断には午前中の男性ホルモンの量を測定する必要があります。

男性ホルモンが、少ないと判断された場合、男性ホルモンを投与する治療(補充療法)が行われます。一般的には注射剤が使われますが、場合により男性ホルモン軟膏が使用されることもあります。注射剤の場合、まず、男性ホルモンを2週間毎に3か月投与し症状の変化を観察します。もし、3か月投与しても症状の改善がない場合、足らない男性ホルモンを補っても症状が良くならないということは、男性ホルモンは関係ないと考え治療は終了です。また、症状が良くなった方も、3か月後一旦補充療法を終了しますが、治療の中断により症状の悪化があった場合、つまり男性ホルモンの投与、中断に一致して症状の改善、悪化が起きた場合、男性更年期障害と診断します。

男性ホルモンが少ないと判断されても、補充療法ができない方もおられます。男性ホルモンは前立腺癌を悪化させるので前立腺癌が疑われる方、排尿症状を悪化させるので極度に前立腺肥大のある方、肝障害がおこることがあるので肝臓の悪い方、赤血球が増え血栓ができる危険があるので多血症の方、睡眠時無呼吸症候群の方などです。このような方々や補充療法を希望されない方の場合は、漢方薬、降圧剤、安定剤や抗うつ薬を使用したり、勃起不全のみを訴えられる方の場合は勃起改善薬を使用するなど最近はオーダーメイド的な治療を行うことが多くなってきています。また、ストレスも男性ホルモンを減少させることが知られています。ストレスが多い現代社会で働く中高年の方が男性ホルモンを減少させて様々な症状を持ち、受診されることが多くなっています。もし気になる症状があるようであれば一度ご相談ください。