第44回 TPP-その2

 大寒波が日本に到来し、寒い日が続いていますが、皆さんお変わりありませんか?年も明け、今年は震災から立ち直る年です。みんなで力を合わせて頑張りましょう。
 さて、最近報道ではTPPに関することがあまり言われなくなりましたが、昨年末からの続きで日本の医療がTPP参加でどのように変化するのか考えてみましょう。
 米国政府と米国政府を応援する米国保険業界は、恐らく日本の国民健康保険制度はTPPにおける非関税障壁だと主張し、アメリカと同じような混合診療の解禁を要求してくると思います。そうすると、どうなるでしょう?
 最先端の医療を求める人は、保険で利かない部分の医療は自費で賄い、保険で認められる部分の医療は健康保険でという風になるかもしれません。このようなお金持ちの方々は、便利になるかもしれません。しかし、健康保険組合の収支が悪い中、医学が進歩して良い治療方法が出てきても高額になる医療は健康保険医療として認められなくなるでしょう。混合診療は、一見、今までの不都合を取り除くように見えるかもしれませんが、一旦導入されると保険で認められるべき最新医療技術が、なかなか保険診療として認められなくなる可能性が高いと思います。入院費、検査費は健康保険で、手術費は自費でという時代が来るかもしれません。
 入院して、まず聞かれることは、手術が必要ですが、松竹梅とあります。松コースは、経験豊富なドクターが最新の医療器具を使い手術します。この場合100万円掛かります。竹コースは、経験は中くらいの先生が普通の道具を使って手術します。この場合50万円です。梅コースは、医者になりたての先生が、10年前の道具を使って一生懸命手術します。この場合は10万円です。どのコースになさいますか?
 要するに医療が平等ではなくなって、お金がないと良い医療を受けられなくなるという時代が来るかもしれません。そうするとそのような場合に備えてみんな民間の医療保険が必要になり、医療保険の得意な外資の保険会社が大もうけするという構図が浮かび上がってきます。野田総理は、そのようなことの無いようにがんばりますと国会で言われていますが、いったんTPPに入るとそのようなことは言っていられなくなります。外国との条約(TPP)は、国内法(国民健康保険法)に優先するからです。
 混合診療解禁が認められなければ、外資保険会社は、国民皆保険制度は、非関税障壁だと訴えて裁判を起こします。訴える先は、日本の裁判所ではなく、TPP違反を訴えるのは国際的な仲裁裁判所です。そこでは、国民皆保険制度がいかに優れた制度で日本に必要かという点で争われるのではなく、国民皆保険制度というものが、外資保険会社が日本に参入する障壁になっているかどうか、障壁となっている場合、保険会社の投資家にとって損失になっているかどうかという点にのみ争われ、負けると(恐らく負けますが)多大な賠償金を外資保険会社に支払うことになります。これは、勿論日本国に対しての損害賠償ですから税金で支払うことになります。このように、国民皆保険制度がなくなるばかりか賠償金まで支払うことになるかもしれません。そんな馬鹿なことがあるかと思われる皆さん、実はもうメキシコ、カナダで同じような事案で裁判を起こされカナダ政府、メキシコ政府は賠償金の支払いを請求されています。
 一方で、日本では使われていない新薬が積極的に使えるようになるかもしれません。欧米では5-10年前から使えていた薬も日本では新薬として審査されるスピードがあまりにも遅いため使えていなかった状況があります。TPPに参加することでこれらのスピードが一気に速くなり新しい薬が広く使えるようになる可能性があります。しかし、これらも保険で認められなくなれば、お金持ちの方のみが使える薬となるかもしれません。
 TPPは私たちに関係ない貿易の話だと思っていると、とんでもない時代が来る可能性があります。経済が弱肉強食になるのはある程度しかたがないとはいえ、本来平等であるべき命がお金のあるなしで決められる時代の到来は歓迎すべきものではないと思っています。