第43回 TPP-その1

朝夕ぐっと冷え込んできて冬への季節の移り変わりを感じる今日この頃です。さて巷では、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)なるものが世の中をにぎわしていますが、今回は、このTPPが日本の医療に対しどのような影響を及ぼすか考えてみましょう。少し長いので2ヶ月に分けて書いていきたいと思います。
 TPPは、この協定に参加するすべての国における貿易の関税をなくし、経済を活発にしていきましょうという目的で作られています。現在、アメリカ、日本を始めシンガポール、ブルネイ、チリなど10カ国以上参加を表明しています。輸出を国是としている日本としては、このような大きなマーケットができると輸出産業である車(トヨタ、ホンダなど)、電機(ソニー、パナソニック、キャノンなど)など輸出製品に関連する会社は恩恵を受けますが、反面、他国に比べ生産効率が悪いとされる農業は壊滅的な被害を受けると予想されています。
 それでは、医療についてはいかがでしょう?現在予想されている影響は、混合診療についてです。混合診療とは、健康保険で認められている医療と認められていない医療を同時に行うことを言います。現在、日本では混合診療は認められていませんので、混合診療を行った場合、健康保険で認められている医療分も自費で賄わなければならず、自己で負担する医療費はかなりの高額になります。たとえば、腎臓癌にかかり、現代医学の最先端である樹状細胞による免疫療法を入院して行いたいとします。(これは、先ごろノーベル医学賞を受賞して、実はその直前に死去されていたことが話題になったスタインマン博士が開発し、自身も膵臓癌のためこの治療法を受けていたそうです。)入院、検査費は健康保険で認められますが、免疫療法自体はまだ効果の良し悪しがわからないということで健康保険では認められていません。したがってすべての医療費が自己負担となり数百万円の医療費を自分で負担する必要が出てくるのです。この混合診療禁止は、違法であり、健康保険の部分は認められるべきだと主張する患者さんの裁判が続いていましたが、先頃、最高裁判所の判決が出て、混合診療禁止は合法であるとの最終見解がなされました。
 もしTPPに日本が参加するとなると恐らく、この混合診療の問題がクローズアップしてくると思います。アメリカの保険会社は日本を大きなマーケットとして考えています。皆さんがよくテレビでみる医療保険のCMがこれです。入院すると1日3000円とか5000円など、何歳でも加入できます、など言っていますよね。なんとなく、"ああ入院するといっぱいお金がかかるなら心配だなあ。"なんて思っていませんか?この時点で皆さんはだまされているのです。日本の健康保険制度は非常に優れたもので、現在70歳以上なら1割の負担、69歳以下は3割の負担と言うことは皆さんご存知だと思います。しかし、入院して検査、手術となると数百万円かかることもあるかもしれません。3割負担だと100万円くらい支払う必要が出てくる、だから医療保険だ、ちょっと待ってください。日本には高額療養費制度というものがあり、1ヶ月に掛かる医療費の上限が決まっています。どんなに収入のある方でもひと月10万円を超えて支払うことはまずありません。通常の方であれば、45000円程度です。ですから、普通に貯金のある方は、医療に備えて医療保険に入る必要は基本的にはないわけです。私ならその保険料を積立貯金します。しかし、これは国民皆保険制度があるからで、アメリカの保険会社はこの国民皆保険制度のため日本の保険マーケットに参入できないわけです。次回は、アメリカがこのTPPを利用して日本にどんなことを迫ってくるか考えてみましょう。