第40回 東日本大震災

桜の蕾もほころんでようやく春らしくなってきました。しかし、3月11日東北地方を襲った大地震と津波によって多くの人命、財産、思い出が失われました。亡くなられた方のご冥福をお祈りすると共に、被災された方にお見舞い申し上げます。粘り強さが身上の東北の方々ですから、きっと今以上の町、生活を再建してくれると信じています。
 今度の震災では、堺市をはじめ多くの都市から医療チームが組織され救助、診療に向かわれました。何も出来なかった私はただただ、彼等に感謝と敬意の念を送りたいと思います。しかし今、私たちが出来ることは何か?と考えたとき自分たちに与えられた仕事をコツコツすることではないかと考えました。ボランティアをできる方はボランティアでも良いでしょうし、社会に貢献できることは何でも良いのであまり大きなことを考えず、コツコツを続けていけば遠回りしても必ず東北の方々の援助に繋がると私は考えています。  この地震では、津波により福島第一原子力発電所にも大変な事故が起こりました。放射性物質の飛散により、現在、原発の半径20km以内は立ち入り禁止区域になっています。飛散状況によっては、もっと拡大するかもしれません。日本中、いや世界中の英知を結集して何とか事故を収束してもらいたいものです。
 しかし、テレビで被爆に関して報告する枝野官房長官の説明には少し違和感を覚えました。国民を安心させるためでしょうが、"10マイクロシーベルトの被爆でこれはCTスキャン1回分の被爆なので健康上まったく問題ない。"という説明です。確かに被爆量としては、CTスキャン1回分と同じかも知れませんが意味がまったく違います。我々医療者は、最小被爆の原則があり、できるだけ患者さんが被爆しないように神経を使います。出来るだけ照射範囲を小さくしたり、照射時間を短くする工夫をします。また、確かにCTスキャンなどレントゲン検査は、被爆を伴いますが、それ以上に得られる情報が有益であるので検査をする訳で、ただ単に理由もなく被爆しているのとは意味がまったく異なるのです。
 難しい話になりますが、被爆による影響として、確定的影響と確率的影響と言う言葉があります。確定的影響と言うのは、ある量の放射線を浴びると必ず出てくる症状のことで例えば、250ミリシーベルトの被爆をすると白血球の減少が起きますし、2000ミリシーベルトの被爆をすると脱毛や出血が起きます。これは被爆量によって決まっています。
 それに対して確率的影響と言うのは、発癌です。例えば100ミリシーベルトの被爆をするとみんながなるわけではないですが、ある確率で癌になる人が出てきます。それは、被爆量が増えれば増えるほど確率が上がることが知られており、1ミリシーベルトより100ミリシーベルトの被爆の方が多いとされています。ですから、我々は出来るだけ患者さんが被爆しないように気を使うわけです。
 では、検査はしないほうが良いのか?無駄な検査は避けるべきです。短い期間に異なる病院で同じ部位のCT検査を受けないなどはそのいい例です。検査を受けた病院のCTを借りて次の病院に持っていけばよいので、新たに検査を受ける必要はないでしょう。また、たまに心配だから検査して欲しいという方もおられます。病気を疑う理由もないのに被爆を要する検査を受けるとそれこそ病気を作ってしまう原因になります。丁度いま、放射線被爆についてマスコミも良く取り上げてくれており、勉強する良いチャンスだと思います。正しい知識を持っていれば、不要な心配や恐れもなくなります。