第34回 求む 治験参加者

木枯らしが吹き、ジャケットを着ないと寒く感じる日が多くなってきました。このような気候が始まると、過活動膀胱と言う病気が多くなってきます。このコラムでも何回か取り上げましたが、急な尿意がでる、おしっこがトイレまで間に合わない、おしっこの回数が増える、夜寝てからも何回もおしっこのため起きる、などの症状がでます。このような場合、抗コリン剤と言う飲み薬が、非常に効果があり、ほとんどの場合、この薬で改善します。

しかしながら、便秘になる、のどが渇く、おしっこが出にくくなる、胃腸の調子が悪くなる、などの副作用があり、また緑内障など眼圧が上昇する病気の方は内服することができないなど欠点が色々あります。この病気は、高齢者の方に多いのですが、高齢者の方は、元来唾液の分泌が少なく、少量の抗コリン剤を内服しただけであっという間にのどが渇く、朝起きると口の中がねばねばする、ということで薬が内服できなくなります。便秘をはじめとする胃腸の副作用も困ったもので、ご飯が食べられなくなったと言われる方もちょこちょこおられます。

このように、非常によい薬なのですが、様々な副作用で内服できず、尿の漏れに甘んじておられる方も多くおられます。製薬会社も、約840万人といわれるこの病気に対し新薬の開発に取り組んでおり、色々副作用を軽減させる工夫をした薬が出てきていますが、なかなか思うように副作用をなくすことが出来ません。

私どものクリニックでは、今この過活動膀胱にたいして効果がある新しい薬の開発に協力しています。

現在取り組んでいる新薬は、これまでの抗コリン剤とはまったく違った攻め口の新薬で効果がありそうなところまできています。ただ、薬として認められるのには、同じような症状を持った方にプラセボと言う、薬とそっくりではあるが中には有効成分が入っていないものと飲み比べて、有効な薬を飲んだときだけ効果があるということを証明しなければなりません。これが、簡単なようで難しく、このような症状を持っておられて、かつ他の邪魔になる薬を飲んでいない方を探して試験に参加してもらえるようにお願いするのはそう簡単なことではないのです。

薬の実験台になるのですか?と眉をひそめる方も少なくありませんが、我々が行うような段階に達した治験は、すでに毒性や副作用にたいする検討はほとんど済んでおり、また服薬中も注意深く、心電図、血液や尿の検査を行いモニターするので問題となる副作用が出てくることはまず無いと言って過言ではありません。今までクリニックで治験に参加された方にまた、次同様な治験があったら参加してもらえますか?と治験終了時にアンケートすると“いいですよ”と答えていただける場合がほとんどです。ただ、自宅での排尿回数や尿量の測定などを数日間してもらう必要があるので、同じ病気で困っている方のためにというボランティア精神がないとなかなか参加してもらうことが出来ません。

治験の仕事をしていて、ひとつ思い出深いある被験者の方の言葉があります。“この病気は今まで自分にとって不愉快でした。でもこんな病気でも人の役に立つことがあるのですね。”
過活動膀胱の薬だけではなく、抗癌剤、抗生剤、降圧剤、糖尿病薬など我々人類にはまだまだ必要なお薬がたくさんあります。安全で効果があり、副作用の少ないお薬を世に出すためには、皆さんの協力が必要なのです。