第33回 マスコミと新型インフルエンザ

夏休みもいつの間にか終わり、秋祭りの練習をする笛や太鼓の音が日増しに熱を帯びてきています。

もうすぐだ、もうすぐだと言われていた総選挙がようやく終わり、予想されていたように民主党の地すべり的勝利、自民党の惨敗で終わり、政権交代となりました。今回の政権交代は、ある意味やむを得ず、官僚、自民党、民主党に緊張関係が生まれると思いますので、私自身は歓迎しています。しかし、ここまでに至る国民を誘導するようなマスコミの意図的とも思えるような報道のあり方は、4年前の小泉元首相の郵政選挙の真逆を見るようで、視聴率を取るためなら何でもやるのか、という感がします。選挙が終われば、鳩山首相や各大臣の学生時代の人となりをワイドショーだけでなくゴールデンタイムのニュースでも流し、まるで勝てば官軍といった風潮です。私たちは、学生時代の大臣を知りたいのではなく、今大臣が何を考えて、どんな日本を作ろうとして何をしているのかを知りたいのです。私たち、一般市民は、新聞やテレビでしか中央で行われていることを知り得ないのですから、必要なこと、我々が知らなければならないことに時間を割き、もう少し品のある報道をしてもらいたいものです。

同じことが、新型インフルエンザの報道にも言えます。最近、新型インフルエンザに関するニュースが増えてきて、日常診療でも質問も増えてきています。さすがに昨年末の致死率数10パーセントだとかスペイン風邪の再来で少なくとも数10万人が死亡するなどという根拠のない情報は、影を潜めましたが、未だにマスコミの恐怖をあおるような報道は、後を絶ちません。新型インフルエンザワクチンにしても国産が1800万本、足らない分は輸入で間に合わすそうですが、10月には接種が必要ということなのに、優先順位が決まっているだけで、どこで、だれが、どのように接種を行うのかということが我々には連絡されてきません。幸いなことに、今度の新型インフルエンザは弱毒で、罹ってもタミフルあるいはリレンザでほとんどの場合治癒しますが、ごくわずかではありますが、タミフル耐性の新型インフルエンザが出現していること、肺、心、腎疾患など余病のある方は、重症化し入院、集中治療が必要になる場合があることなどから早急な接種計画を公開し、準備を始めなければなりません。

それにも増して、重要なのは、季節性インフルエンザの対策がお座なりにされていることです。インフルエンザワクチン製造に必要な有精卵が新型ワクチン製造にとられ今年は季節性インフルエンザワクチンの供給が十分ではありません。私のクリニックでも昨年の80%しか納品できないとのことで希望者すべての方に接種できるかわからないところです。昨年流行ったタミフル耐性A型インフルエンザが今年も流行るとそれだけで重症化する患者さんが出るのではないかまた、タミフル耐性遺伝子を新型インフルエンザが獲得してしまうのではないかと私自身は心配しています。報道機関もノリピーがどうだか、首相夫人がUFOに乗って金星に行ったことがあるとかどうでもよいことにうつつを抜かさず、自民党政権時代の政府の対応の遅れが今頃我々の上に降りかかってきているということをしっかり取材してどんなことが必要か、われわれがしなければならないことは何かということをしっかり報道すべきではないでしょうか。

我々にできることは、マスクの着用、手洗い、咳エチケットを守るということだけではないはずです。