第31回 夜間多尿について

桜の花も散り、日も長くなってきました。暖かい日も日に日に増えて、患者さんの中にも、暖かくなっておしっこの調子もよくなってきましたと言われる方が増えてきています。

さて今回は、前回からの続きで夜間頻尿の原因と題して、第2の原因である夜間多尿について考えてみましょう。
膀胱がいくら正常で1回あたり200-300ml溜めることができても夜作るおしっこの量が増えてしまっては夜間に排尿のため起きてトイレに行く回数は減りません。これも夜間頻尿という症状になってしまいます。ただ、前回と違うところは、トイレに行くとしっかりとした量が出てくるというところです。
このような方に排尿日誌をつけていただくと200ml以上の排尿量が2-3時間おきに何回も記録されていることがわかります。膀胱は正常で溜める力は問題なく、溜まるからおしっこに行きたくなって目が覚めるという当たり前のことが起こっているわけです。
ではなぜ夜間におしっこが増えるのでしょう。
正常な場合、夜はおしっこに行かなくて済むように頭にある脳下垂体という場所から抗利尿ホルモンというおしっこを作らせないホルモンが多く分泌されます。このホルモンが出ると腎臓はおしっこを濃縮させて尿量を減らそうとします。
ところが、歳をとるとこのホルモンの分泌が悪くなって夜にホルモンの量が減ってきます。すると腎臓は、おしっこを濃縮することを止めて薄い尿がたくさん出てくるということになります。

また、お年をとると血圧が高くなります。通常、カテコラミンというホルモンが血圧を高くする働きを持っていますが、血圧の高い方は日中このホルモンの分泌が高く、夜間低くなります。このホルモンは、血管を収縮させる働きがあり、日中、高いと腎臓の血管を収縮させ、おしっこを作ろうとする血液の流入が減っておしっこを作らなくなります。
ところが夜このホルモンが減ってくると腎臓の血管は開いてきますが、昼間作らなかった分だけ体に水分が残っているためますますその水分をおしっこにしようとして尿量が増えます。このように血圧をしっかりコントロールするということも夜間の多尿を防ぐ方法になります。
糖尿病も夜間多尿の原因になります。

これは、多飲多尿といいますが、尿中に糖分が漏れ出てくると尿の浸透圧が上がります。体液より浸透圧が上がるとそれを薄めようとして体から水分が尿の方に引っ張られて出てくるわけです。
すると体は水分が少なくなりますから、のどが渇いて水(ジュース)を飲む、飲むとおしっこが作られて糖分が尿中に漏れてくる、という悪循環に陥り、多尿になるといわれています。
これは糖尿病を治療することでよくなります。
また、患者さんの中には夜に水を飲まないと脳梗塞になると思い込んでる方もおられます。誰が言い始めたのか知りませんが、夜に水を飲まないと脳梗塞になりやすいなどということはありません。人間は夜眠るように作られているわけで夜にがぶがぶ水を飲まないと脳梗塞になるなどということはないのです。朝一番から夜寝る1-2時間前までにまんべんなく水分摂取ができていれば問題ありません。お風呂に入って汗をかいたなら1杯くらいの水分は必要かもしれませんが、それすら飲まないでも血液がどろどろになるなんてことはないのです。いつも患者さんには、もしそんなことで脳梗塞になるのなら、真夏に外を歩いたら一発で脳梗塞になりますよ、そんなことより血圧のコントロールをした方がよほど脳梗塞の予防には役に立ちます、説明しています。
夜間多尿に対する治療はなかなか難しいですが、夕方軽い運動をする、水分摂取を計画的に行う、軽い利尿剤を夕方に内服するなどその患者さんにあった方法を一緒に考えて治療していきます。