第30回 夜間頻尿について

3月に入り、もうすぐ春だなと思わせる陽気の日もある一方、お水取りの時期になりやっぱり冷え込むなあと思う日もあり三寒四温といったところでしょうか。
今回は、夜間頻尿についてお話したいと思います。今度、あるフォーラムで泌尿器科から見た夜間頻尿と睡眠というお題を頂いて講演することとなりました。
普段は、夜は何回トイレに行きますか?辛くないですか?などと問診していますが、実は、夜間の頻尿という症状は、たくさんの原因があります。

泌尿器科的に考えた場合、夜間の排尿回数が多いのは、1)頻尿と2)多尿の2タイプに分かれます。
つまり、1)たびたび尿意がありトイレに行かねばならないが、行ってもそんなに尿が出ない(尿が膀胱に溜まっていない)という純粋な意味での頻尿、2)夜になるとどんどんおしっこが腎臓で作られるためすぐに膀胱がいっぱいになり、尿意が出てトイレに行かなくてはいけなくなる多尿、どちらもトイレの回数が多いという現象は同じですが、原因も治療も異なってきます。1)頻尿の代表選手は、このコラムでも何回か出てきた前立腺肥大症、過活動膀胱という病気です。前立腺あるいは膀胱が原因で尿が膀胱にしっかり溜まらずトイレにいってしまうという状態で、アルファブロッカーという薬や抗コリン剤という薬がよく効きます。

また、意外に多いのが不眠という状態で、患者さんの話をお聞きしていても尿意を感じて目が覚めるのか、目が覚めるからトイレに行くのか曖昧になっている方は、不眠が原因と考えてよいでしょう。この場合は、睡眠導入薬が効果を発揮します。ところが、患者の皆さんは、安定剤なんて!癖になったら怖い!などと言われ内服するのを嫌がられます。最近は、不眠が万病の原因になっていることが明らかになっており、高血圧や糖尿病の方で血圧が安定しない、血糖やヘモグロビンA1cが安定しないという方に睡眠導入薬を内服していただくだけで血圧も血糖も安定した、などというデータも出てきて不眠がいかに体にたいして悪影響があるか明らかになってきています。私どものクリニックでも夜間頻尿を訴える患者さんに睡眠導入剤を内服してもらうと平均3.4回の夜間排尿回数が2.1回に減少したというデータが出ており、効果があることは明らかでした。

なぜそうなるかは明らかではありませんが、人間歳をとると、年々眠りが浅くなり、中途覚醒といって夜間に何度も起きるようになります。寝室でテレビをつけっぱなしで休まれるという環境やアルコールで眠ろうとすることなどは眠りを浅くする原因になります。それに対して、夕方の30分以上の散歩や短時間の昼寝などは入眠をスムーズにし中途覚醒の回数を減らす効果があるようです。

それでも眠りが浅い方は、睡眠導入剤を内服されることをお勧めします。最近の睡眠導入剤は、翌朝への持ち越し(朝ボーっとする)もなく、筋肉への影響 (夜ふらふらしながらトイレに行く) も少なく、また癖になる(習慣性が出る)事もありません。夜間何回も目覚め、朝ボーとする症状がある方は、そちらの方が体に与える影響が問題で睡眠の改善が健康を維持するのに有効だと考えられます。しかし、一方睡眠時間が短くて......、というだけで睡眠導入剤を内服される必要もありません。睡眠の質は、睡眠の深さと睡眠時間で決まります。短時間でも眠りの質がよく、朝起きたとき熟眠感があれば、それで睡眠は足りているのです。かのナポレオンも睡眠時間は3時間だったといいます。よほど質の良い眠りだったのでしょう。
よく眠ること、これは夜間のおしっこの回数も減らし、健康の源にもなるでしょう。
次回は、2)多尿についてお話しまします。