第22回 前立腺癌検査について

先ごろ厚生労働省の前立腺癌検診にかかわる研究で、検診は勧められないとの見解が出ました。大きな理由は、検診で早期に発見しても生命予後に影響を与えない、つまり検診で早く発見してもそのために長生きするというデータがないというものでした。また、PSAが高い方の場合、2次検診として前立腺生検という組織を採る侵襲のある検査が必要ですが、少なからず陰性と出る方がおられ、無駄な検査を受ける不利益があるというものでした。

一方、我々泌尿器科医が属する泌尿器科学会は、PSA検診が有効かどうか現在実施中の研究もあり、結論を出すのは時期尚早であるとの立場をとっています。日々の診療でも患者さんにどっちが正しいのですか、と問われることが多くなりました。

問題は、前立腺癌という病気が他の癌と少し様相を異にしているからだ、と私は思っています。特別な場合を除いて前立腺癌は高齢者に発生し、そしてゆっくりと進行していく癌です。また、ホルモン療法という男性ホルモンを遮断する治療がほとんどの前立腺癌に有効であり、これは転移を有するか否かに関係しません。つまり、お年寄りに癌が発生してかなり進んだ状態で発見されても、ホルモン療法を行うとかなりの確率で癌をコントロールでき、寿命を全うできるということです。それが故に、癌を早く発見した場合と進んだ状態で発見した場合で病気の予後に差がつきにくいのだと思います。故に検診で早く発見する必要はない、というのが厚生労働省の言い分のように思われます。(はっきりとは言いませんが。)

でも本当にそうでしょうか?人間誰しも、病気があれば早く見つけて治したいものです。特に数は少ないとはいえ40歳代から前立腺癌は存在します。このような社会的にアクティブに活躍してもらわなければならない年齢の方々に進んだ癌が発生した場合やはり社会的に大きな損失ではないでしょうか?根治できる大きさの癌で治療した方が、明らかに治療成績が良いというのが我々現場の泌尿器科医の感覚です。どんな病気でも早期発見、早期治療が良いに決まっています。生活の質も上がるでしょう。厚生労働省は、癌によって命を落とすという生命予後だけを指標にし、生活の質というものを考慮していないように私には思われました。

現在、私が開業している堺市にはPSA検診がありません。他の市町村と比較出来る前立腺癌による死亡率や罹患率のデータはありませんが、それでもかなり進んだ状態で発見される前立腺癌は毎年少なからずおられます。以前のコラムで書きましたように、早期に前立腺癌を見つければ、色々な治療法をわれわれ泌尿器科医は提示できます。そのための検診は、なくすべきではなく、むしろ広げていくべきではないでしょうか?