第17回 前立腺肥大症

桜の花の開花が始まり、JR三国ヶ丘駅の桜の花もピンクの山のように咲き誇っています。私も診察の合間に桜の花を眺めるとほっとし、日本人は本当に桜が好きなんだなあと思います。お花見をする人も増えていると思いますが、この時期、花見酒をきっかけにおしっこが出にくくなり泌尿器科を受診される方もおられると思います。以前、頻尿の原因というコラムで少し述べたと思いますが、今回はもう少し詳しく前立腺肥大症という病気についてお話してみたいと思います。

どの教科書にも書いてありますが、前立腺は膀胱の直下にあり、本来は精液を作るくるみ大の臓器です。中を尿道が貫いていて歳を取ると徐々に大きくなってきます。これは歳を取ると髪の毛が白くなるのと同じで、加齢による変化なので男性であればどなたでも起こります。ただ、大きくなる程度とスピードが人によって異なるために症状が出る方と出ない方がおられるというわけです。前立腺が大きくなると起こる事は2つあります。ひとつは、中を通る尿道を圧迫して排尿時に気張らないと尿が出ないという症状や尿の勢いが悪くなってだらだらといつまでも尿が出続けるといった通過障害の症状ともう一つは、大きくなった前立腺が下から膀胱を押し上げるため膀胱を刺激し頻尿、残尿感など刺激症状です。このような症状が出てきてはじめて泌尿器科の扉をノックするというわけです。

治療の選択肢の第一番目はアルファブロッカーと呼ばれる薬です。狭まった尿道を広げる作用と膀胱、尿道に対する刺激症状を取る作用があるので、まず8割から9割の方によく効きます。また、このとき前立腺に炎症などがあり少しむくんでいるなあと感じるときは漢方薬や植物エキス製剤などを足して処方することがありますし、夜間頻尿や切迫感といわれる強い尿意を訴えられる方には抗コリン剤といわれる薬を少量加えたりすることがあります

中にはこのような薬物療法に反応せずなかなか症状が取れない方もおられます。このような場合、手術という選択肢をお話しするわけですが、現在行われている前立腺肥大症に対する手術はいろいろあります。しかしながら今もゴールデンスタンダードな手術として広く行われているのは経尿道的前立腺切除術と呼ばれるもので、脊髄あるいは全身麻酔下に直径1cmほどの内視鏡を尿道に挿入し、電気メスを沿わせて挿入し肥大した前立腺を中からかんな削りのように削り取ってくる手術です。前立腺の大きさにもよりますが約1時間の手術で2週間くらいの入院が必要です。手術により90-95%の方は満足され確立された手術といえるでしょう。

特別な場合ですが、前立腺が大きく手術の適応はあるが全身状態が悪く手術ができない、またはそれ以外に膀胱の神経や筋肉に問題があり手術をしても自分で排尿が難しいと判断された場合、バルーンカテーテルという尿道カテーテルを留置したり、間歇的自己導尿という尿意のあるとき自分で尿道に細いカテーテルを挿入して尿を採る方法もあります。

私どもでは、前立腺肥大症の患者さんにおしっこの勢いを見る検査(特殊な器械にいつもどおりおしっこをしてもらうだけです。)を行い、その後残尿を測定しています。この検査で、投薬治療を行っても、腹圧排尿の強い方や残尿の多い方(常時100ml以上の残尿を認める方)には、手術をお勧めしています。