第11回 前立腺癌マーカーPSAについて

PSA とは、前立腺特異抗原と呼ばれ前立腺細胞の中に存在するたんぱく質です。その働きは、精液を固まらないようにするもので、本来は癌とは何の関係もありません。この PSA が血中に漏れ出てきたものを我々が測定しているのです。しかしその有用性は優れたもので、前立腺に特異的で前立腺癌の発見、治療効果を見るには最適のものです。正常値は、一般的には 4.0ng/ml 以下とされており、 4.0ng/ml 以上であれば癌を疑わなければなりません。勿論、 4.0ng/ml 以上の方が皆癌であると言うわけではなく、前立腺の大きさ、前立腺の炎症の程度などによっても数字は上がったり下がったりします。日本の泌尿器科専門医の中でも 4.0ng/ml 以上は全員直ちに生検だといわれる方もおられますが、 4.0ng/ml 以上 10ng/ml 以下のグレーゾーンといわれる方の生検における癌の検出率が 10 % -20 %といわれる中で全員即時生検というのは少し経済的にも、効率的にも無駄が多いような気がします。そこで検査をする以上できるだけ癌の出そうな人をピックアップして検査をするのがよいと考えられます。

一般的に、より癌を検出するためには、 

1) PSA 増加速度( PSA velocity ) 1 年でどのくらい PSA が上昇するのかということです、

2) F/T 比の測定: PSA は単独で存在するフリー PSA(free PSA) とあるたんぱく質と結合して存在する PSA があります。癌になるとフリー PSA の割合が減ることが知られており全体の PSA(total PSA) との比を調べることにより、より癌が疑われるか知ることができます。

3) PSA 体積比( PSA density ):前立腺が大きければ当然 PSA が高くなりがちです。 1cm3 当たりの PSA の値を計算し、その値が高ければより癌が疑われます。

などが使われます。

私どもではまずグレーゾーン( PSA4.0ng/ml-10ng/ml )の方については、 3 ヵ月後の PSA を再検し、前回値と比べます。そのとき、 F/T 比も測定し、より癌が疑われるか否か調べます。もし癌が疑われる場合、 MRI の検査をお勧めします。 MRI は鋭敏な検査で前立腺を詳しく画像に描出してくれます。ここでも癌が疑われる場合、生検をお勧めしています。生検については、以前のコラムで述べておりますのでそちらを参照していただければよいかと思います。日本人でも前立腺癌は年々増加しています。早く見つけることができれば、治療の選択肢も増えますし、根治の可能性も高まります。 50 歳以上の男性は年 1 回の PSA 測定をお勧めします。