【特設ページ】永住許可申請の概要(2021年版)
【1】永住許可申請とは?
2021年現在、日本には多くの外国籍の方(以下「在留外国人」と記載します)が在留しています。
2020年版「出入国在留管理」(入管白書)によると、2019年末現在において在留外国人の総数は293万3,137人であり、そのうち「永住者」の在留資格をもつ外国人は、79万3,164人。全体の27.0%を占めているという統計が出ています。
この在留資格「永住者」は、日本に一定在留した外国人が申請することのできる在留資格であり、他の在留資格と比して、①在留期間が無期限であること(在留期間更新許可申請が不要となります)、②活動制限がないことという2点に大きな特徴があります。
これがなぜ特徴かといえば、通常、在留外国人は、一定の活動内容に応じた在留資格を与えられ、かつ、許可された在留期間の期限内で活動することが認められているからです。たとえば、日本の企業で、通訳として就労するためには、「技術・人文知識・国際業務」という在留資格が与えられ、「5年」だとか「3年」だとか「1年」といったように、個別事案に応じて、一定の在留期間が認められます。
これはつまり、「あなたは、日本では通訳者として3年間、活動していいですよ。」というルールに則っているからであり、たとえばこの方が通訳以外の仕事を行ったりすれば資格外活動となりますし、在留期限が到来しても何も手続きをすることなく日本に在留すれば不法残留(オーバーステイ)ということになります。これらは、いずれも出入国管理及び難民認定法(以下、「入管法」と記載します)違反となってしまいます。
また、働くための在留資格の種類によってまちまちですが、これらの就労系在留資格を許可されるためには、一定の学歴が必要とか、何年の実務経験が必要というように個別に基準が設けられており、外国人の方なら誰でも自由に日本で働くことはできない仕組みになっています。
これは、外国人本人にとどまらず、外国人を採用する企業側にも管理コストが求められます。たとえば、中途採用した外国人の方がどんなに人柄がよく優秀であったとしても、そもそも基準を満たしておらずその会社で勤務することはできない場合だったとなれば、外国人は在留期間更新許可申請が許可されず、本国に出国する可能性もありますし、何よりコストをかけて採用したにもかかわらず、会社側は人手を失ってしまいます。
その意味で、一定年数日本に在留している外国人の方あるいは外国人採用を行った企業側からすれば、「永住者」となりそのような管理コストを軽減できるのであれば、ぜひそうしたいという要望が強くあります。過去の在留実績に応じて、許可・不許可が判定される在留資格のため、「永住者以外」の外国人が増えれば増えるほど、ゆくゆくは、「永住者」の総数も増えていく可能性があります。ゆえに、日本に在留する外国人の約3割が「永住者」であるという統計は、自然の流れともいえます。
【2】永住審査は厳格化したのか?
ところで、2020年以降、「永住許可申請の審査は、かなり厳格化したのではないか?」と言われています。
結論からいえば、現場の実情や肌感、申請者数に応じた許可件数といった統計、当事務所にて受任させていただく個別事案の状況などをトータルで分析すれば「審査は厳しいものになっている」と言わざるを得ません。
この大きな要因の1つに、2019年7月に、永住許可申請に求められる必要書類が大きく増えたという点にあります。
すでに多くのサイト(入管含む)で情報は公開されていますので詳細は省きますが、従来求められていた「住民税の課税納税証明書」のみならず、国税や保険料(健康保険・厚生年金保険や国民健康保険・国民年金)などの書類や実態もガイドラインに明記されたのです。また、「住民税の課税納税証明書」も直近3年分でよかったものが、直近5年分を求められるようになりました。
これらは、在留外国人が日本の法令で定める「公的義務の履行」をしているかを確認するためのものです。日本でずっと生活する以上、日本の法令を遵守しているよね?当然、きちんと税金や保険料を支払っているよね?というもので、難しくいえば、「国益適合要件」といいます。平たくいえば、無期限で活動制限のない「永住者」という在留資格を認める以上は、日本での生活において素行がよく(犯罪などをしておらず)、きちんと自身の生計能力で(生活保護など、国・地方公共団体の負担にならず)、国益にかなう(税金や保険料もしっかり納めている)人ですよね、ということを審査しているわけです。
したがって、この「提出書類」のガイドラインの変更自体は、特段、厳しいものとはいえません。一部の方を除いて、日本人であれば、きちんと税金や保険料を納めているはずです(金額が多くて不満な方もいらっしゃるかもしれませんが、それでもきちんと法令を守って納めているはずです)。ここは日本ですから、日本で生活していく以上、外国人だから税金や保険料は支払わなくていいよ、というルールにはなっていないのです(年金については、当時は外国人は除外されていましたからその名残もあるのかもしれませんが、今は、外国人も含め対象となっています)。
ではなぜ「厳格化」したといえる(感じる)のか?
それは、提出書類が増えた分、審査対象となる範囲が広くなってしまった、ということが一因です。
よくわかりませんね(笑)。一例を挙げます。たとえば、先ほど「住民税の課税・納税証明書」は、直近5年分を求められるようになったと書きました。これが意味するところは、こうです。たとえば、申請現在において、年収400万円の外国人(東京の会社員)の方が、1人で永住許可申請をしようと考えます。この場合、遡って「5年間」の年収をみていきます。直近は400万円(①)、その前は400万円(②)、その前は400万円(③)、その前は400万円(④)、その前は250万円(⑤)。はい、出揃いました、直近5年分の課税・納税証明書を並べました。この場合、永住許可申請をしたら、許可になる可能性が高いでしょうか、低いでしょうか?
残念ながら、不許可の可能性が高い、といえます。ちなみに、ガイドライン改正「前」であれば、許可になったかもしれません。さらに言ってしまえば、私(筆者)が行政書士として開業した数十年前であれば、年金に一部未納があったとしても、許可になっていたかもしれません。
でも、2021年現在では、不許可の可能性が高いです。
それはなぜでしょうか。理由は、5年前の「収入」が少ない、からです。申請人の方は、おっしゃるかもしれません。「いやいや、その頃はちょうど勤務先と喧嘩になって退職して、半年以上、転職活動をしていたんだ。だから収入が少ないのは当然だ!今は、しっかりと稼いでいるじゃないか!」と。お気持ち、お察しします。でも、ダメなんです。なぜかというと、「提出書類からみて、収入基準を満たしていないため。」です。でも、ガイドライン改正前であれば、直近3年分で判定していました。つまり、上記の課税・納税証明書でいえば、①~③で判定していました。どうでしょうか、この3年だけであれば、「収入基準を満たしているから、許可になりえます。」という回答になります。
いかがでしょうか。これは、ほんの一部です。このような「落とし穴」が、実は、保険料や年金などでも起こりえます。「審査が厳格化された」というよりは「審査される範囲が広くなってしまった」の意味は、こういうことです。そして、これが、出入国在留管理局の審査です。ちなみに、私個人の意見としては、このような画一的な審査が妥当なのかという点においては疑問があります。過去のいきさつはきちんと説明をした上で、現時点における収入額を重視する方針の方が、現状にかなっているのではないか、と。5年前に収入が少なかったから不許可、という画一的な審査方針は、どうにもバランスが悪く、個人的にはこのような過去にとらわれた審査手法はいかがなものかと考えています(あくまで「収入」についての話であり、過去の犯罪歴などは別です)。
いけません。私はどうにも文章を書き始めると、脱線していくクセがあるようです。軌道修正して、次に進みます。
【3】永住許可申請の「クリアすべきポイント」
さて、先ほど「収入の基準を満たしていないため」と記載しましたが、「永住許可申請に収入基準なんてあるのか?」。実はこの「基準」、確実に存在します。しかし、一切、入管から在野の私たち国民や外国人に情報が洩れることはない非公開情報です(私も開業してから何度も、永住審査部門と直接話をする機会があるときは、この基準についてヒアリングしました。しかし、一切教えてはくれません。ヒントは頂けるのでそれで十分でしたけれども・・)。
外国人(会社員)1人が永住許可申請をする場合、おおむね「300万円が基準」とされています。これはあくまでも、1人で申請する単位です。一方で、被扶養者がいる、家族全員で申請するなどの場合には収入基準が増大します。また、永住審査における収入は、世帯単位でみてくれますから、夫婦ともに外国人であって双方が会社員として収入を得ているのであれば、合算(つまり世帯単位)でカウントしてくれます。一方、奥さんがアルバイトをしているというような安定していない収入の場合には、原則として合算してくれません。また、申請人のお父さんやお母さんを扶養家族にいれている場合にも、その分、求められる収入は大きく変わるのです。このように、収入基準については、個別事案において、ちょっと細かいんですね。もし、申請を希望される方がいれば、こういった現場でしかわからない部分は、行政書士等に相談してみるのも1つの手だと思います(ここに細かく書いてもいいのですが、個別事案で当てはまる場合とそうでない場合があるので、記載はやめておきます。気になる方は、遠慮なくご相談ください)。
さて、永住許可申請において求められるのは、次のような「要件」があります。
<例>
(1) 素行善良要件
→ 主に、過去の在留実績や、犯罪歴の有無
(2) 生計維持要件
→ 主に、収入面(直近5年分がすべて基準を満たしているか)
(3) 国益適合要件
①10年以上引き続き日本に居住している
→ 途中で帰国していたり、在留資格を取り直したなど、通算では不可。
② ①のうち、就労系在留資格の期間が5年以上ある
③税金(所得税、住民税)について未納はないか。
→ 特に、普通徴収の場合は注意。
④保険料(健康保険、年金)について未納はないか。
⑤ 現在の在留期間(「3年」または「5年」であること)
(4) 身元保証人
上記のような外してはいけないポイントについては、くれぐれも時間をかけて、提出書類とあわせて準備していくことをお勧めします。なぜかというと、永住許可申請というのは、申請回数に制限はないものの(仮に不許可になっても、何度でもチャレンジしてよい)、申請してから審査完了まで、半年(長い人だと1年丸々)かかったりすることも珍しくありません。出入国在留管理局は、一応「4ヶ月」と標準処理期間(審査期間)を公開していますが、4ヶ月で審査が終わり、永住許可される方は極めて少数派です。1年待ったあげく、不許可になってしまったというケースだってあるわけです。
【おわりに】当事務所で何ができるか?
さて、ここまで永住許可申請の概要について記載してきました。さらに詳細な点や最新の現場動向については、今後、当サイト、You tube(エフイヴちゃんねる)、noteなどでも発信していきたいと思っていますので、随時、チェックしてみてください。
最後に、今回この記事を読んでいただいた永住許可申請を検討している皆様に、当事務所でお手伝いできることを書いてみます。
今まで書いたように、永住許可申請の審査というのは、皆様の「過去の在留実績」によるものが大きいところがあります。たとえば、先ほど挙げた簡単な例ですと、「転職してしまったから収入が減った年があった」というものでした。当事務所は、外国人採用(就労系在留資格)を専門として2011年に開業した事務所です。これまで多くの就労系在留資格をもつ外国籍の方や、企業の社長、人事担当者の方々とお会いしてきましたが、その中には、「あ、それをやると入管法違反です(=将来、永住申請などにも影響します!)」というケースは少なくありませんでした。
また、税金や年金についても、「いずれは本国に帰るから、年金をもらうつもりはない。だから、年金払わなくていい。」といったことを、令和3年の今でもおっしゃる方がいます。あるいは、普通徴収(会社が給与を支払う際に、住民税等を源泉徴収してくれない。つまり、自分で支払い対応しなければいけない)のケースにおいて、「自治体から納税のお知らせなんてきていない!自治体が忘れているんじゃないか?」といって調べたところ、「自治体はきちんと発送しています。未納状態です。」とお役所から言われてしまう方も稀にいらっしゃいます。
それらのほとんどが、「このルールを知っておけばそんな判断はしなくて済んだのに!!」ということばかりです。永住許可申請という「勝負」は、実は、日本で初めて在留資格をとったときから、すでに始まっているのです。でも、外国人の方にとって、「自治体からの通知」をみて理解するのは、非常に難しい面もあります。また、人事担当者だって、入管法だけでなく、労働法制や年金法の専門家ではありません。外国人を採用したから、すべて誰かがやってくれているという思い込みは、根底から不利な状況をつくってしまいます。
だからこそ当事務所は、「外国人関連法務の専門家」として、ご依頼の方法がスポット(単科)か顧問契約かを問わず、常に1つ1つ何かアクションを起こそうと思った都度、ご相談いただけるような存在になれるよう、入社前の段階から在留資格の先を見据えて情報提供をしてきました。ちょっとした判断ミス(勢いで会社辞めるとか、無計画に人員配置を変えるとか・・)で、人事計画が狂ったり、在留資格を失ったりすることは少なくありません。逆に、「在留資格」を気にするがあまりに、本来のキャリアアップとは真逆の判断をしてしまう外国人従業員の方もいらっしゃいます。開業当時に決めた、「在留資格に振り回される外国人や企業を減らす!適正適法な判断ができるようにサポートする!」、その思いは、これからも変わりません。
いけません。文章を書くと、どうしても脱線していくクセが私にはあるようです。本記事はこれにて終了しますが、今後、随時更改してまいります。
(最新:2021年5月現在)
【参照動画】「永住者の概要」(2020年収録、「エフイヴちゃんねる」より)
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《執筆担当》
(行政書士) 村 瀬 仁 彦
1984年、岡山県倉敷市出身。行政書士事務所エフイヴグループ代表。21歳のときに、都内のある司法書士事務所で補助者を経験したことを契機に、本格的に法務実務の世界に入る。司法書士事務所在籍中に行政書士試験に合格。その後、複数の司法書士事務所(法人)・行政書士事務所(法人)にて、約6年間の実務経験を経て、2011年(27歳)に個人事務所開設。その後、2013年(29歳)、東京都豊島区(池袋)に事務所移転。
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