講演要旨

 

網羅的解析から明らかになる

 

N-ミリストイル化タンパク質が担う多彩な生命現象

 

 

 

内海俊彦 (山口大学大学院創成科学研究科)

 

 

 

 タンパク質の脂質修飾は、脂肪酸、イソプレノイド、リン脂質といった脂質がタンパク質に共有結合する翻訳後修飾である。これらの脂質修飾は、多くの場合、膜アンカーとして機能し、細胞情報伝達をはじめとする様々なタンパク質の機能発現過程において重要な役割を担っている。このうちタンパク質N-ミリストイル化は、1980年代初頭に見出され、がん遺伝子産物p60srcに生じ、その発がん活性にこの脂質修飾が必須であることが明らかにされ注目を集めた脂質修飾である。しかしヒト細胞内に存在するN-ミリストイル化タンパク質の網羅的解析は、その簡便な解析手法の確立の遅れからこれまで進んでいなかった。

 

 最近、ケミカルバイオロジーの手法(Click Chemistry)と最新の質量分析法を組み合わせる事でヒト細胞内に存在するN-ミリストイル化タンパク質の網羅的探索が進んでいる。また我々は、タンパク質のN末端アミノ酸配列情報をもとに、無細胞タンパク質合成系を用いた代謝標識実験によりN-ミリストイル化タンパク質を網羅的に同定する手法を開発し、この手法をヒト全タンパク質に適用した結果、これまで150個程度と考えられてきたヒトN-ミリストイル化タンパク質が、300個以上存在することを明らかにした。さらに、新たに見出されたN-ミリストイル化タンパク質の生理的機能に関する我々の研究を含む、多数の研究者による多くの研究から、この脂質修飾が、細胞情報伝達以外に、細胞内のタンパク質輸送やオルガネラ形成、アポトーシス、オートファジーの機構にも深く関与すること、さらにそれらの異常により、がんをはじめ神経変成疾患や感染症といった様々な疾患が誘導されることが明らかになってきた。本シンポジウムでは、タンパク質N-ミリストイル化を例に、脂質修飾タンパク質の網羅的な探索手法について解説し、新たに見出されたN-ミリストイル化タンパク質が担う多彩な生命現象について紹介する。

 

[参考文献]

 

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