若松紀志子からのメッセージ

 



 


「うちはピアニストになるんや」
小学一年生の紀志子の夢が、それからの人生を決めた。

 紀志子は大正四年九月十一日、京都市で生まれた。三条の十字屋という楽器店で黒光りする大きなピアノに出会って以来、「ピアニストになって、いつか舞台に立ちたい」と思い始めた。ピアノを前に喝采を浴びる自分の姿は、夢のように輝いて見えた。



 
 
「景色はどこも灰色で、人まで灰色に見えた」

 夫は兵役に取られ、家は跡形もなく焼かれ、仕事も取り上げられて、病み上がりの幼い娘を抱えている自分。これからどうやって生きていけばいいのか。「何もかもなくしてなくしてしまったのだ」と思うと、体全体を空虚さが包んだ。




「光一郎さんという人は  幸せな人でした」

 二人はときにぶつかり合ったが、価値観が一緒だった。お金や権力に縛られることを嫌い、心が豊かになることを何よりも愛した。生きるうえでの芸術の重要性を理解し、心の渇きを潤してくれるのは芸術しかないことを身を持って知っていた。



「私の指導に特別のテクニックはない。
ただ心から心へと伝わるものを大事に、
音楽の素晴らしさ、喜びをわかちあいたいという情熱がすべて 」

 
”もし僕が若松先生にお会いできなかったら、きょうの自分がないことは確かである”
 詰め襟の制服を着た中学二年生の小林研一郎は父に連れられ、湯本の紀志子の家の門を叩いた。



「自分の職業がこんなに楽しいなんて 」

自分の生き方は自分で見つけなければならない。むちゃくちゃの頑張り人生だったけれど、振り返ってみるといい人生だった。そう振り返られることは幸せなことですね。



 
 
 
 
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